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押井守氏の発言が話題になっている。「表現はおもしろいが、空論に過ぎない」、というのがワシの感想だ。


 まず、福島の原発事故について。彼は、科学技術の核となる思想が日本人に欠けていたのが原因だとしているが、本当にそうか? 逆に、そのような思想があれば事故は防げたのか? 日本と違って、科学技術に思想のあるアメリカやフランスの原発は、未来永劫、安泰なのか? そんなわけはないし、実際に向こうでも原発事故は起きている。


 そして、欧米人のアニメの見方について。彼の見解は、今までさんざん繰り返されてきた 「公式見解」 をなぞっているだけで、まったく表面的、というほかない。欧米人はキリスト教文化に規定された見方をしているというが、実際にそうか? 日本のアニメを見て、仮にそれまで体験したことのない感動を得たとしても、彼らはそれを言葉で表現することができない。それまで学習してきたキリスト教文化の語彙を使うしかないのだ。ナイトクラブでアニメを見ている欧米人が何を思っているか。それは検証不能な謎だ。


 さらにいうなら、キリスト教文化の中で生きている欧米人は、実際にはどこまでキリスト教的なのか、という問題があるが、これについては上山安敏の 「魔女とキリスト教」(講談社学術文庫) を読んでみてほしい。また、自分の体験を言葉で表現することの困難さについては、ゲルショム・ショーレムの 「カバラとその象徴的表現」(法政大学出版局) がオススメだ。